監査リスクが上昇し監査時間が不足している。このため監査報酬を上げて必要な監査時間を確保しなければならないという意見が、最近増えている。一方で被監査会社からは監査の効率化が当然のこととして求められる。これは報酬が安ければよいということではなかろう。
そもそも、監査における品質とか効率を明確に定義したものはない。みなが何となく言葉のイメージを想定して話をしているが、そこから先に踏み込まないので、何時までも議論がすれ違う。
そこで、持論を展開したい。
まず、効率性とは「投入資源に対する成果」であり効率化とは「投入資源あたりの成果をより大きくすること」である。投入資源とは監査においては基本的には監査人員が要する時間のことであるが、成果とは「リスクを許容水準まで軽減したという心証」である。
つまり、
効率性=成果÷投入資源 ・・・(式1)
と表現される。これを監査報酬という要素を挟んで表現すると、
=(成果÷監査報酬)×(監査報酬÷投入資源)・・・(式2)
となり、右辺第一項括弧内こそ被監査会社が求める効率性であると考えられる。第二項括弧内は、監査法人の内部管理における採算性の問題だ。つまり、監査法人の視点で見れば、監査の効率性とは、
効率性=顧客満足×監査採算・・・(式3)
ということであるが、顧客満足と監査採算を両方バランスよく上昇させていくことが効率性の命題であることが分かる。
一方で、効率性を監査手続との関係で見ればどうだろうか。つまり、
効率性=(成果÷手続)×(手続÷投入資源)・・・(式4)
右辺第一項括弧内は、ある手続から得られる心証の強さを意味しており、「証拠力」と言ってもよいだろう。証拠力とは監査リスクの軽減度合と比例関係にある。すなわち、より強い心証を得るための手続の取捨選択をすることである。証拠力とは監査リスクの軽減度合と比例関係にある。証拠力が高いという言い方は監査リスクをより軽減していると換言してもよい。第二項括弧内は、一つの手続をするための所要時間を表しているから、「作業能率」ということである。
つまり、心証形成に必要な監査証拠は被監査会社の状況による与件であることから、監査人はより強い証拠を能率よく得るために手続を取捨選択することにより、効率性を上昇させるのである。これは監査の品質管理そのものである。
以上から言える事は、以下の通りである。
1.被監査会社の監査効率は得られるべき成果(つまり監査人が得るべき心証)を少なくさせると監査全体の効率性はアップする。これはビジネスのリスクが低く、内部統制も相当に有効であり、結果的に監査のリスクが少なくなればよいということである。
2.いくら監査人が作業能率を上げても、実施している手続が心証形成により強く寄与するものでなければ、監査全体の効率性には繋がらない。したがって、リスク軽減したという心証をどのように得るかという監査手続の設計は効率性にとって非常に重要であり、形式的な監査調書の書き方や用語の使い方よりも品質管理においてはより重点的に取組まねばならないことである。
監査の品質管理は効率性の向上に寄与する「はず」である。それはクライアントのリスクマネジメントがより強固になること、そして監査人の品質管理が監査手続設計に焦点を置くことによって達成させる。