組織の実行知

2009年7月26日 | By 縄田 直治 | Filed in: 組織力.

日本企業は本音と建前の世界を使い分けるという指摘が80年代には随分と流行ったが、今は余り言われなくなった。あまりに当たり前すぎて研究の対象すらならないのかもしれないが、むしろもっと踏み込んで実証研究してみることも必要なのではないか。
法制度と企業行動の関係、組織制度と人の行動の関係については、私にとっては以前から関心がある分野である。すなわち、制度は何らかの期待成果を得るために、規制対象となる当事者の行動を制約ないし誘導することで、期待成果の獲得を確実にしようとする目的でその存在意義が見出されるが、そこには必ず期待成果とは全く反対の結果をもたらす反作用と、期待成果とは別の成果である副作用とがある。副作用は反作用の原因ともなるので注意しなければならない。
形式的な制度以外にも組織人が従っている決まりのようなものがあり、それらは得てして、ひとまとめにして組織文化という一言で片付けられることが多いが、そこには組織が永続して気づかれてきた知恵が内蔵されていることがあり、それをあえて「実行知」と呼んでみたい。
行動と結果とを因果関係で捉えれば、制度は行動をもたらす形式面での「原因」となる。しかし、形式的制度に加えて「実行面での仕組み」を捉えることは、組織の強さを理解するうえで、大きな貢献をしそうな予感がある。
野中・竹内「知識創造企業」では、組織はSECIと呼ばれるダイナミックなプロセスを経て、暗黙知を形式知にしながら、さらに別の暗黙知を形成しつつ、その存在意義を革新していくと説明されているが、実はこの暗黙知についてはその「暗黙」「不可視」のゆえか、「テキスト化されていない」といった消極的な説明しかなされず、十分な研究がなされていない。一子相伝の世界や、徒弟制度の世界において、代々受け継がれる知恵として、技術的要素を中心とした説明にはしっくり来るのだが、組織が永続する力としての実行知についてはどうなのだろうか。例えば、朝礼で社訓を唱和するといった行為が、どういった成果をもたらしているのか。「成果」自体が曖昧なものであるためになかなか研究対象としづらいものなのかもしれないが、真に日本の組織の強さ(ないし脆さ)を考えるうえでは不可欠な要素である。

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