心証の形成

2007年6月2日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査と監査人.

監査意見を表明するに当たっては、心証を形成するために十分な証拠を入手しなければならないことになっている。心証とは監査に携わる者の良心と知見に基づく問題なので、「これだけやれば十分」ということを一律に提示できない。最近では「・・・・に関する監査上の取扱について」というものがでることによって、実務に迷いが生じないように配慮がされるようになってきているが、反対に判断基準に幅がなくなってきた感もある。

つまりどれだけたくさんの証拠があっても心証が形成されなければ、意見表明はできない。たとえ全ての伝票をチェックして正しいという証拠を得たとしても、たとえば伝票処理されていない重要な取引あるかもしれないという職業的懐疑心に基づく疑念が残っていれば、心証は形成できない。
ではどうすれば心証が形成できるのか、どうすれば満足するのかという質問は、監査を受ける立場からは出てくるが、それが監査人の職業的懐疑心に基づいているものである以上、答えは各人各様となることもある。前回はよかったのに・・・というぼやきも聞かれる。監査業務に携わらない人にもっともわかりにくい部分であろう。

この職業的懐疑心は、「合理的な疑い」とも言われるが、最近ではリスク感覚という言葉でも表現されつつある。

例えば、売上の監査をしているときは、「この売上は架空かもしれない」という疑いを持つことから始まる。
架空売上が計上されるリスクである。そして売上が架空である場合の条件をいろいろと考える。例えば、取引先に債権の確認をして回答が得られない、取引先の納品確認がされていない、入金条件が通常より長い、商品に動きがない、・・・・など。
それらを、残高確認、納品書の閲覧、取引条件の比較、出荷伝票の閲覧などによって、
売上が架空である場合の条件を一つ一つつぶしていき全てが否定されたときに、売上は架空ではないという心証が得られることになる。

監査はまず疑った上で、その疑いが成立する条件を一つ一つ否定していきながら、疑いを晴らすという手順を踏む。中学生が数学で習う背理法を実践しているようだ。実務で困るのは、疑いが成立する条件が必ずしも全て否定されないときだ。その場合には更に別の条件を加味しながら、検討していくしかない。
監査を受ける側に取引が公明正大に行なわれたということを積極的に挙証しようとする意識があるかどうかは、監査の効率性に多大な影響を与えている。

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