IFRSとXBRLの上位にあるもの

2009年5月23日 | By 縄田 直治 | Filed in: 開示制度.

1.IFRSが及ぼす2つの影響

IFRSが日本で導入されるという話が何処まで具体的に進んでいるのかは雑誌等で書かれている以上はよく分からない所だが、遅かれ早かれ日本でも導入されることは間違いなさそうである。そのような時に経理部門はどのような対応を迫られるのか、また影響範囲が経理だけに留まるのかそれとももっと「経営」のレベルにまで及ぶか、あるいは極端な言い方ではあるが、業界慣行の見直しや業界再編とかいう話に繋がるのか、興味のあるところだ。

もともとIFRSは会計基準であるため、その目的は財務報告に関するルールを構築するという以上のものではない。つまり複式簿記の原則が変わるとか、課税所得計算体系が大きく変わってしまうとか、会社法や金融商品取引法の報告概念が変わるといった大きな影響はなく、したがって会計処理の方法やこれに伴う事務処理が変わる、ミクロな影響しか考えないというのも頷ける。

しかし、会計処理方法が変われば、利益の測定方法に影響が出るので、外部の利用者の「見方」が変わることは十分に考えられる。もとより会計基準の改正は、外部の利用者により適切な財務情報を伝えようとするところに主旨があるわけで、これによる外部利用者の見方や態度が影響を受けなければ、会計基準を改正する意味もないことになる。

となれば、何らかの形で企業経営においても、社内の業績測定体系の変更を迫られるなどの影響を受けることになるだろう。つまり、会計基準の変更に伴う会計及び周辺業務の変更というアプローチと、会計情報の利用による経営改善というアプローチとの両方が必要になってくる。

2.IFRSが目指していること

国際財務報告基準設定主体であるIASBが目指しているものは、会計基準の設定であるとはいえ、「公益に適う、単一、高品質、理解可能、各国間を取り持つ」会計基準である。

Our mission is to develop, in the public interest, a single set of high quality, understandable and international financial reporting standards (IFRSs) for general purpose financial statements. —— http://iasb.org/

そこには会計が達成すべき、以下のような基本概念の実現が含まれている。

  • 会計処理の統一性(同一環境における類似の取引には同一の会計処理が適用される
  • 経営者が把握した財務的影響をもたらすリスク情報の適切な評価と財政状態への反映される
  • 上記が同一の集計方法とフォーマットで報告される

しかしいくら比較可能、理解可能であったとしても、その表現する情報が企業の実態を表現していなければ、有用な情報を提供しているとはいえない。すなわち、「企業の業績(存在価値)とは何か」「何が財務的リスクを及ぼすか」という企業存在の本質に立ち入った議論をする必要がある。これは経営者の考え方そのものでありまた社会から見た経営者に対する評価でもあるわけだから、まずは経営者の考えが同じ土俵で表現されるという前提が必要である。つまり、経営者と市場とが同じ基準で会社の実態を見るという意義も大きい点を強調せねばならない。卑近な例では時価情報の開示などの論拠に現れる。

3.IFRS以外の対応

とはいえIFRSは所詮は会計基準に過ぎない。つまり、企業活動を測定報告はできたとしてもそれの持つ意味は別の情報をあわせて理解しなければならないが、そのために必要な次のような要件は、各国の規制当局が対応することになるのだろう。

  • 開示の適正性(企業活動の理解に必要十分な範囲の情報が比較可能な形で提供される)
  • 情報の適時性(「事実」が発生した段階つまり経営者が認識した段階で市場にも認知させる。)

情報の適時性や開示の方法については、開示制度には経営者と市場との間の企業の状況に対する情報の非対称性をなくす意味がある。

4.より大きなトレンド

IFRSがそこまでもミッションを認識しているかどうかは別として、企業が対峙するものは「市場から社会へ」そして「株価や企業価値から企業の”存在”価値へ」と移っている。俗っぽい言い方をすると、戦略の持つ意味が再認識されつつある。
善を追究(会社の存在意義は何か)し善を追求(会社の存在意義をどう実現するか)する活動としてのCSR情報(認知資産=世間が「よい」と感じるもの)を開示したりするのもその現れである。

資本効率の追求(ROIC)は、単にその指標を見ようということではなく、Returnをもたらす活動はどういう活動に基づきreturnをもたらしたか、その質までは数字は問題にしない。しかし、問われている中でその数字を見るのと、単に投資採算という形で見るのとは異なる。少なくとも同じROICであれば、投資家はよりwelfareをもたらす活動のほうに投資しようとする。
企業活動が直接もたらすものは商品やサービスを通じた価値の提供であるが、他方、企業活動が間接的にもたらす様々な社会問題(公害・環境問題、格差、貧困、紛争など)をコストとして考えた場合、資本効率だけを問題にする会計は、情報として片手落ちである。IFRSは情報としてそれ自体の価値を追求しつつ、会計基準の持つ限界を知り会計では表現できないことを他に委ね、全体としての企業情報の一部として会計を位置づけるよう周囲にも働きかける必要があろう。

そういった動きの中で、XBRLが導入されタクソノミが確立されていくことでCorporate Profileが統一されていき、各社の状況が比較可能な形で得られる意義はとても大きい。文字通り、XBRLは、Financial ReportingではなくBusiness Reportingのための仕組みである。

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