GC前提「重要な不確実性」に二つの立場か

2009年5月2日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査制度.

唐突なGC開示規定の改正があって10日間が経過。いろいろと話を総合してみると、監査人の間で、「重要な不確実性」を巡ってどうやら二つの考えが錯綜しているようだ。

開示の基準を定める監査委員会報告74号では、GC注記の必要な場合として、

「期末において、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であって、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、継続企業の前提に関する事項を財務諸表に注記することが必要」

と言っている。

一方、監査の手続基準を定める、監査基準委員会報告22号では、

「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合で、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策を講じてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときには、財務諸表において継続企業の前提に関する事項を適切に注記することが重要」

と、若干の語順が異なる程度でまったく同じことを言っている。つまり、経営者が「事象・状況」の対応によりそれを「解消・改善」して、なおも「GC前提に重要な不確実性」がある場合には注記が必要という点では、双方の考えはまったく一致しているといってよい。

しかし、74号に「事象・状況」に関する例示列挙があるものの、「解消・改善」と「重要な不確実性」の考え方については、特に考え方が定められているわけではないので、書いてあることから読み取らなければならない。

経営者の開示基準である74号の「5.対応策の検討「および「6.継続企業の前提に係る評価期間と検討の程度」での経営者の対応策の検討評価については、「財務諸表作成時現在計画されており、効果的で実行可能であるかどうかについて留意」し、「合理的な期間(少なくとも貸借対照表日の翌日から1年間)にわたり企業が事業活動を継続できるかどうかについて、入手可能なすべての情報に基づいて行う」こととなっている。この結果、経営者は万策を講じて事業の継続を図ることになるため、22号の19項に記載されているようなことを考えていなければ、通常は相応の対応策が用意され「重要な不確実性はない」という判断をすることになろう。

しかし監査人の手続基準である22号の「継続企業の前提に関する重要な不確実性」17項では、

17. 監査人は、入手した監査証拠に基づき、単独で又は複合して継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関する重要な不確実性が認められるかどうかについて結論付けなければならない。継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在しているかどうかについては、当該不確実性がもたらす影響の大きさ及びその発生可能性に基づき、実態に即して判断する。不確実性がもたらす影響の大きさ及びその発生可能性に基づき、財務諸表の利用者が企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に理解するために、監査人の判断により、継続企業の前提に関する適切な注記が必要であるとした場合、継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在していることになる。

ここが読み方が難しいところで、「事象又は状況に関する(経営者の解消・改善策に)重要な不確実性」があると読むのか、それとも、「(一般的な)不確実性がもたらす影響の大きさ及びその発生可能性に基づき、財務諸表の利用者が企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に理解するために、監査人の判断により、継続企業の前提に関する適切な注記が必要」なときに重要な不確実性があると読むのか、見解が分かれている。

前者の立場にある場合には、経営者が合理的な計画を提示できれば、その蓋然性に問題がない限りは、注記すら必要ではなくなることになる。しかし、後者の立場にある場合には、経営者から提示された対応策の内容に関わらず、監査人が状況を見て注記が必要と判断した場合には、重要な不確実性があるので、経営者対応の蓋然性の有無に関わらず経営者は注記をしなければならないことになる。

前者の立場においては、注記は不要であってもリスク情報への開示が必要となっているが、それを強制することができずそれが開示されなければなんらの情報も提供されないという問題が起こる。他方、後者の考え方に問題があるのは、「監査人の判断により、継続企業の前提に関する適切な注記が必要」なときには、二重責任の原則が成立しなくなる可能性があることだ。

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