新たな会計方針の選択における経営者の役割

2007年4月1日 | By 縄田 直治 | Filed in: リスクの分析と評価.

内部統制の運用を有効たらしめる重要な要素として、経営者の姿勢というものがある。内部統制を構築し、運用し、課題を把握し、改善していくのが経営者の責任である以上は、経営者の姿勢が影響するのは当然なのだが、この「姿勢」というものを客観的に表現することは難しい。ましてそれが監査における評価項目の一つであるとされた場合に、いったいどうやって評価すればよいのか、悩んでしまう。

監査論が想定している「二重責任の原則」では、制度に基づく決算を作成するのが経営者、制度に則して監査するのが監査人となっている。この理想を砕いて言えば、会社自身が、人材を育成し、会計制度を勉強し、それに即した経理体制を用意し、業務プロセスに経理手続を織り込み、所用の統制で信頼性を担保することができるようにする・・・ということになる。

事業に最も適した会計方針の選択は経営者の選択事項で、監査人の立場で「こうしなさい」と言えるものではない。こちらは事業の理解に基づいて、同業他社との比較や他の会計慣行などを比較衡量しつつ、それが会社の実態を表現するに適しているかどうかを判断する立場なので、ベストな処理を念頭に置きつつも、場合によってはベストな処理方法ではなくとも制度上許容しうる範囲で経営者の選択を容認することも通常はあることだ。この辺は新聞等の報道では大いに誤解されている部分だ。

多くの場合、新しい会計制度が出てきたときや会社の業態が変わって新たな会計制度の適用を考慮しなければならないときは、社内で揉んだ上で相談を持ちかけられるが、そこまで出来ない会社もあるので監査人の立場から指導助言することもある。

だが、実際に助言したときに、真っ向から否定形で来る会社もないわけではない。反論は大いに結構なのだが、代替案が提示されないと、議論が新しいアイデアに弁証法的に発展していかない。ややもすると、「我々は素人だから知らなくて当然です・・・」と開き直ったり、て、「そんな話は聞いたことがない、もっと早く言え」とこちらに責任転嫁したり、「何とかしろ」と、(実際の物言いは柔らかであっても)まるでこちらがアイデアを出す役割で、その中から気に入ったら適用しますよという態度で来られることもある。

さらに会計処理方針の選択は数字に影響が出るため、営業など他の部門の評価などに絡むことがあるため、経理部門との議論は済んでもその後で更に社内調整という民主的過程が必要になり、これがますます会社側の対応を遅くしてしまう。得てして経営者はこのプロセスを知らされていないことが多く、社内調整がつかず決算が近づいていよいよというときに初めて知らされると、「もっと早く指導して欲しい」と矛先を監査人に向けられることがある。こういう経営者の態度は経理業務の改善にはなかなか結びつかない。経営者が経理責任者の「うちは大丈夫です」を無条件に信じきっている裸の王様である危険性もある。

財務報告に係る内部統制の経営者による評価過程では、制度の変化などにきちんと対応しきれる組織かどうかという点を経営者自ら検証することが求められる。何も難しい話ではない。それは、新しい会計制度(公開草案など早い段階から)が出てきたときに、まず経理担当取締役が取締役会や経営会議などの席上で、新しい制度を説明して「これから会社への影響について検討に入り、何時までに結論を出します。」と表明するような仕組になっているかどうかを省みればよい。たとえそれが出来ていない場合でも、経営者は経理部長に指示すればよい。

もしタイムリーにそういった情報が入らないとすると、それは経営者と経理責任者とのコミュニケーション(情報伝達)が円滑でない可能性があるので、内部統制の脆弱性を示唆していると考えて対応すべきだろう。さらに、制度の新設や変更に関する情報は、監査人との協議や雑誌の記事などでいくらでも入手できるわけだから、経理責任者がそれを把握していないとすれば、会社の経理体制にはかなり根深い問題があると考えて、経営者自らが対応する必要があるだろう。つまり、そのようなちょっとした経営者の姿勢如何で財務報告プロセス(経理業務)は、大きく変わることができるということだ。

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