見積もりへの提案

2015年9月12日 | By 縄田 直治 | Filed in: 制度会計.

会計で報告される業績のうち、市場取引によって決まった価格で報告されるものよりも、いわゆる「経営者の見積もり」という要素が業績に大きな影響を与えている。

企業買収で生じた暖簾についえは買収先の会社の今後の業績見込みが大きく影響する。
繰延税金資産の回収可能性は、その会社の事業計画に大きく左右される場合がある。
取引のレベルで言えば、不良債権の回収可能性や工事損失の見積もりなど、見積もりだらけの様相を呈している。

もともと会計の考え方自体に幅がある。例えば、工事進行基準という考え方と工事完成基準という考え方は、工事の利益が工事自体から生じているのか、完成物の引き渡しから生じているか、という違いが現れている。これは報告者側の意思ではなく会計情報を利用する立場の見方の違いである。

前提となっている事実の捉え方にも幅がある。
同じく工事進行基準を取り上げれば、工事進捗率一つとっても原価の発生に応じて率が増えていくという考え方や、成果物(例えば建物のフロアごとの仕上がりや、トンネルの掘削距離数の出来上がり)に応じてという考え方がある。

さらには、交渉によって今後も契約価額が上下することもあるし、さらにその見積もりにも楽観的な見積もりから悲観的なものまで幅がある。

こうした幅ばかりの要素を加味した会計が、たった一つの数字に帰結させて業績を報告しようとするのが、今の会計である。それが報告のための会計として機能しているのだろうか。

報告会計に経営者の判断を入れるのであれば、例えば、「当期の利益はX億円として報告しますが、これは経済情勢が安定的に推移した状態を前提としており、さらに楽観的に見ればYだけ(当期の業績として報告する利益が)上乗せされますし、逆に悲観的に見ればZだけ下がることになります。」という報告をさせればよいのではないか。YにしてもZにしても経営者が誠実であれば合理的根拠があるはずだ。それをXに帰結させて報告するところに、そもそもいまの情報提供会計のあり方に疑問を呈したい。

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