リスクってどう考えればいいのですか

2013年11月23日 | By 縄田 直治 | Filed in: 監査会計用語.

会計監査の原点はリスクアプローチだが、この言葉を最初に知ったのは確か1990年くらいだったと記憶している。当時の監査は、勘定科目からスタートして記録を逆進していきながら取引事実に当たるという、今で言えば詳細テストに近い方法が採られていた。もっとも当時の私がそういう手続しかできない新人だったために、記憶違いをしているかもしれない。

この方法は今でも有効だが、大きな欠点があるのは、「記録されていること」を前提にそれを追跡するという発想が根底にあるので、取引の記録漏れや改竄には無力だ。当時はメインで銀行を担当していたので、たまに事業会社の監査現場に行った際に、現場の先輩から、「数字だけを追いかけるのではなく、会社が何をやって利益を稼いでいるのか考えながら数字を見ろ」とよく叱られたものだ。もっとも、昨今は業務処理のIT化によって帳簿全体を眺めることがなくなっているので、数字だけを追いかけることすらできなくなっているが、この問題は別の機会に議論したい。

この言葉は、私に限らず周辺の人がよく言われたらしく、今でも年代の近い人と昔話をすると同じような話が出ることがよくある。リスクアプローチという概念を知った時には、何だかとても新しい監査概念が導入されたかのような印象を持っていたが、いまになって思えば、先輩から指導されたこの言葉は、リスクアプローチそのものだったと気づく。

「会社が何をやって利益を出すか考える」ということは、ビジネスを理解してそれが会計にどのように反映されるのかを考えることであり、競合を踏まえたビジネス環境自体を深く知らなければ、利益が出る取引なのかどうかも判断できない。会社の取引活動がわからなければ、付加価値を生み出す瞬間が捉えられないし、利益を計上するタイミングが適切かどうかも分からない。さらにはそれを知らなければ、「変な利益」が計上されていても変だとは気が付かないし、変な利益の立て方を想像することもできないことになる。

つまり、リスクアプローチとは「監査はリスクを考えることから始まる」という至極当然の事を、リスク評価手続とリスク対応手続という概念で説明しているだけだと気がつくわけだが、この考えるという主体的行為の中にリスクが見出されるということ、自分がリスクと感じなければリスク認識したことにはならないことを、実感として若手に説明するのがとても難しい。最近の不正事案でよく出されている調査委員会報告などの事例を見て勉強するか、自分で実際に事案にぶち当たってしまうかくらいしか、勉強する方法はない。

若手に勉強方法を尋ねられたら、「沢山の事例にあたって自分の頭で考えること」と言うようにしているのだが、どこかに「正解」が書いてあることを期待している人には単なる意地悪なおじさんにしか見えないだろう。自分の外に正解を求める姿勢それ自体が、リスクアプローチを放棄していることに気がついてもらうためにどうすればよいのか悩むところだ。

これも考えるしかないのだろうか。

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